2200円もするこの本。ページ数も多く5000ページ以上あります。
ただ自閉症の方の性的問題について詳しく書かれている本はレアなので、読む価値は大きい。
本作の主人公(ノンフィクションです)ニックは児童ポルノ所持違法で逮捕されてしまいます。
事前予告もなく急に押し入ってきたFBI。
児童ポルノを作成・販売したわけではなく、それを見てダウンロードしたことにより逮捕されました。
ニックは社会性の障害のため、幼少期から友人に恵まれず数多くのいじめも経験してきました。
紆余曲折を経てやっと自閉症に関する自らの体験を記した本を出版したり、講演を行ったり、自閉症児への特別支援教育のアドバイザーとして近隣の学校で働きだした直後…
逮捕されました。
児童ポルノを見てダウンロードをしてしまったのは、彼の社会的発達と性的発達の遅れに原因があります。
子供が児童ポルノに写されていることが虐待であり、それを見ることは子供達を再度虐待することに等しい、という事実を彼は想像できなかったのです。
そしてそのことを誰にも教えてもらえなかった。
ニックは知的な発達(特に言語面での発達)は遅れておらず、大学院にまで通っています。
でも社会面での発達は小学生並です。
小学校・中学校・高校と学校生活を送る中でいじめを日々経験し、腹を割って話せる友達は一人もできませんでした。
加えてLGBT であったので、自身の性的な欲求に関する混乱を一人自分の中で抱いていました。
通常の思春期の少年ならば友人と話したり、恋愛経験を積む中でやってはいけない事とやっていい事との区別が明確になっていくのですが、ニックにはその機会がありませんでした。
性的な思いをインターネットのポルノに求めざるを得なかったようです。
ニックの独白によると児童ポルノを見ていた理由は、子供と具体的に性的な関係を持ちたかったからではありません。
自分の精神面はまだ子供のままということを自覚していて、児童ポルノを見ることで被写体の子供に自分を反映していたようです。
この事実は衝撃的でした。
相手の身体に同意なしに触ってはいけない、とかそういった具体的なスキルを教えなければいけないということは以前から思っていたのですが、ネットで児童ポルノを見てはいけないということまで教えなきゃだめですね…。
本の後半で専門家の視点から、アスペルガーの成年男子の多くはポルノに強い興味を抱きやすいと描かれています。
ニックのように友人や実際の恋愛経験を通じて性に関する肯定的な情報が得る機会が少なく、知識を得ることや性的欲求を満たすことを、他人に拒絶されることのないインターネットに求めてしまいがちだそうです。
日本でもここ数年は児童ポルノの単純所持罪で毎年数百件は検挙されています。
https://www.npa.go.jp/policy_area/no_cp/uploads/kodomonoseihigair3.pdf
子供が児童ポルノをダウンロードし、その結果警察が家に踏み込んでくる…という事態もありえなくはないです。
曖昧な言い方はせず、やってはいけないことを明確に教えなければいけませんね。
本作は当事者であるニックの人生と事件の詳細について本人が語っているのが主ですが、巻末には親御さんの苦労話や専門家による支援に関する話も記載されており、充実した内容です。
和書ではなかなか読めない本。
子供が将来性的犯罪に巻き込まれないようにするために、何をすべきだろうと不安な方にお勧めです。
(続く…)